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執筆者の写真Mitsuki

――池田久輝さんインタビュー



___2020年10月28日、我々文芸みぃはぁは、京都の二条城近くにある朗読専門の劇場『rLabo.』にお邪魔した。そこで行われる朗読の脚本を手がけるだけでなく、小説家としても活動されている池田久輝さん。(画像は著作)




今回の記事は、2020年10月15日に発売された池田久輝さんの作品『虹の向こう』の読書会&インタビューの、インタビュー記事である。



Mitsuki(M) :インタビューを始めていこうと思います。よろしくお願いします。

池田久輝さん(池):お願いします。


創作を始めたきっかけを教えてください。

池:今から思えば、強烈に表現ってものに触れたのは小学校のとき。香港映画なんです。ベタにジャッキー・チェン。ちょうどその、僕の学生時代が香港映画がグワッと伸びてくる時期と重なっていて、『霊幻道士』『男たちの挽歌』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』『恋する惑星』『天使の涙』(※①)とか、そういった映画を見てきたことが僕の土台になってるのかなと。



M:本ではなく、映画が創作のきっかけというのは意外でした。


池:実は僕ね、めちゃくちゃ本嫌いやったんですよ。夏休みの読書感想文とか、とにかく嫌いで、解説を写して出すような生徒だったんです。


M:えぇ!


池:そんな僕が本を読むようになったきっかけは高校生の頃。公立高校の進学クラスみたいなとこに行ってて、同級生が休み時間に本を読んでたんですよ。マンガかなって思ってたら、小説やったんでびっくりしました。高校生なりに「これはちょっとやばいぞ」って感じで、そこから「何か面白いの紹介して」って聞いて、推理小説を借りたのがきっかけ。

ちょうど、綾辻行人さんとか我孫子武丸さんとかが世にバーッと出てくる時期で、京都ってこともあったので読んでました。そういった本のあとがきに「この小説が面白かった」とか「こういう人たちを読んできた」とか書いてあって、そこからエラリー・クイーンにいったり、ヴァン・ダインとか、チェスタートン(※②)とかも読むようになって、推理小説にハマっていきましたね。


その頃から、推理小説を書かれていたんですか?

池:いや、その頃はまだ読み手側。実際に書くようになったのは大学へ行って舞台をやってから。演劇に出会って、芝居って面白いなと。そこから脚本を書き出したのが初めてですね。


M:そうなんですね! 小説から脚本を書くようになったのかと思っていたので、逆だと聞いて意外でした!


池:そうです、脚本から。小説は全然書いてないです。脚本を書き始めて、文字表現、文章表現というものに対して興味を持ったという感じ。


それから小説を書くようになるきっかけは何だったんでしょう?

池:会話だけじゃなく、地の文も書きたいなって思ったからですね。芝居というのは会話で進んでいくでしょ。基本的に脚本は会話を書くわけです。でも、そのうちに情景描写や人物描写なんかも地の文で書きたいなと思い始めて。で、結果的に演劇から朗読という表現形式に移行していった。

そこから小説を書くようになったのは、僕が所属している朗読ユニット グラスマーケッツ(※③)の主要メンバーが抜けたりとかして、今までやってきたペースで朗読公演ができないようになったのがきっかけですね。時間ができたし、この機会やからと小説を書き始めました。


M:香港映画⇨本⇨演劇⇨脚本⇨朗読⇨小説、という流れだったんですね。


入りだしに香港映画の話が出ていましたが、今までで一番衝撃だったというか、人生のバイブル的作品ってありますか?

池:ベタで恥ずかしいけど、未だに強烈な印象として残っているのは、ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』という映画。

小説として凄く書きたいなって思うのは、ジョニー・トー監督の『PTU』という映画かな。これは、ある日の深夜から午前四時までを描写した警察映画で、機動隊が街をパトロールしているときに、四時間の中で出会う出来事を描いてる。

この映画の登場人物、機動隊グループの距離感や配置がめちゃくちゃかっこいい。ずっと夜のシーンで画面が暗いんだけど、街灯が一本スポットになっているとか、ライティングにとても凝ってるのね。文章で書いてみたいなと思うシーンが詰まってる映画。





M:今回のイベントの前半で、人との距離感を描きたいと言っていたことや、映像を文章化するのが好きだと言っていた部分と通ずるところがあって、納得しました。観てみます。


本から着想を得ることってありますか? 好きな作品や作家などもあれば教えてください。

池:好きな作家は原尞さん。沢崎っていう探偵シリーズを書いてる方なんだけれども、文章の勉強をしたのは彼の作品。短編のいくつかは実際に書き写して、「あ、こういう構成になってんのか」とか「これぐらいの行数で描写を変えるんか」とか、自分なりに分析してました。おすすめの短編集は『天使たちの探偵』かな。


M:今回読書会で取り上げた『虹の向こう』で構成や描写のタイミングが心地よかったのには、そういう理由があったんですね。



~質問タイム①~

小学生だったころとか、書くことに凄い抵抗があったってお話されてましたが、今でも書くのがしんどいなって思うことはありますか。

池:めっちゃしんどいです。もう八割しんどくて、一割めちゃくちゃしんどくて、 残りの一割がちょっと楽しいくらい。


質問者1:それでも書き続ける理由っていうのは。


池:一つは他にしたい仕事がないっていうのと、文章を書くことに伴う苦しみやったら、自分の中でまだ耐えられるかなと。





池田さん自身の認識としては脚本家なんでしょうか? 小説家なんでしょうか?

池:小説家ですね。脚本っていうのは、役者(演者)がいて、上演されてこそって部分があるので。その分、小説家は1人で完結するじゃないですか。どちらにも優劣はないけれど、そういう意味では気持ちとして小説家かな。


~質問タイム①終了~


書くルーティンはありますか?

池:僕は、机に座るまでが長いです。またしんどいことをやらなあかんって思うと、なかなか机に向かえないというか。それでも、どうにかして座って、「今日も書かなあかんか」と思いながらパソコン立ち上げて……みたいな。それの繰り返しですね。



M:いい映画や本に触れたら書きたくなるとか、それこそ文章化したい映像に出会って気づいたら短編一個でき上がったみたいなことってあったりしますか?



池:逆にね、いい映画やいい小説に出会ったら、やる気を失くします。こんなの書けへんわって思っちゃうし。


M:逆に書くようにするために何かしていることってありますか。


池:無理矢理ですね。これをしてモチベーションを上げるというのはないです、全然。もちろん、原稿の依頼をいただければ、その時点で気合は入りますけど。その場合、プロットというよりも、冒頭部分を十枚ほど書いて、こんな感じでどうでしょうと編集者と話を進めていく感じです。





~質問タイム②~
文章書くのが好きな人って伸びなくて、実は嫌いな人の方が伸びるって聞いたことがあるのですが、池田さんはどう思われますか? また上達する方法とかあれば教えてください。

池:それは一理ありますね。一番の上達は人に読んでもらうこと。それが大事です。感覚的に自分と合うとか、信用している人に読んでもらうっていうのが一番大きい。次に、そこで意見されたことを素直に受け入れられるかどうか。「ああ、こういうふうに解釈されるのか」っていうことの積み重ねだと思います。


ネットで評価は検索されるんですか?

池:あ、僕はほとんどしないです。書き終わって発売される頃には、僕はもう別の小説に取りかかっているんですね。どうしても、そういうラグができる。今現在書いているものに集中したいというのが本音です。


特に小説を書いてるっていうわけじゃないんですけど、自分が知ってる言葉とか知識の中でしか文章を作れなかったり、キャラクターを作れないなって感じています。自分の文章の幅を広げるために何かやってることがあれば教えていただきたいです。 例えば、いろんな人が集まるところに行くとか、何か異文化交流をしてみるとか。

池:文章を書くとき、本人はできる限り冷静でいる方がいいと思ってるんですね。ただ、小説の中では人が動くわけで、当然、そこには人の感情というものがある。だから、喜怒哀楽をちゃんと感じられる人じゃないとダメなんですよ。

人に会うことで、自分の感情を動かすことは大事かな。仮にそれで嫌な気持ちになったとしても、どう嫌なんだろうって言語化できるかどうか。感情の訓練って言ったらちょっと大げさかもしれませんが、そういうことは人と会うのが手っ取り早いと思うので、損はないと思います。


質問者4:文章を書くときにはあまり自分の感情を持ち出さずに書かれているのでしょうか。


池:僕はそうです。一人称で書くか、三人称で書くかにもよりますが、できる限り客観的に作品を見たい。三人称で書く場合は特に。一人称なら、つまりは主人公にグッと入ってしまわなければならないこともあります。そこのバランスは難しいですね。


質問者4 :お気に入りのキャラクターを作ってしまわないように気を付けているって感じですかね。


池:どうでしょうね。意図的に作る場合もあるし……キャラって絶対好き嫌いあるでしょ。その辺りの加減は未だに正解が分かりません。読者によっては、主人公の目線で物語を読むとも限らないですしね。





~質問タイム②終了~

今回話を伺って、個人的に特に印象深かったのが、人の距離感を描くという話でした。もう少し詳しくお聞きしてもいいですか?

池:人と人の距離感だけでなく、人と街との距離感なんかもわりと意識しています。

僕自身、一番興味があるのは、その人の生きていく上での軸。例えば、家族とか、お金とか、プライドとかでもいいんだけど、この人は何を軸にして生活してるんだろうって。キャラクターを作るときにも、それは考えてますね。


M:話を聞いていて、読書会のときに出た「どのキャラも深堀できそうなものがある」という意見を思い出しました。それが軸に興味があると言う部分、今回の『虹の向こう』と通じる部分があって納得しました。



宣伝することがあれば......

池:『虹の向こう』はテーマがなくてバラバラだったんですが、次の短編集は一貫したテーマを持ったものになりそうです。ジャンル分けすると、ホラーになるのかな。ただ、まだ全然書き終わっていないので……。


最後に、小説を書いていて、楽しいと思う瞬間を教えてください。

池:もちろん一つは書き終わったとき。それ以外だと、長編短編に限らず、山を乗り越えたときかな。山というのは、ここはどう展開すべきやろうとか、どう人物を動かすべきやろうとか、そういう迷い。大体、少なくとも三回くらいはそんな大きな山に出くわします。そこの選択を誤っちゃうと、戻って全部書き直さないといけなくなってしまうんです。まあ、これはプロットを用意しないから起こることかもしれませんね。これを繰り返しながら、正しい道を選んだなって感じた瞬間、物語がちゃんと動きだした瞬間は嬉しいですね。



M:貴重なお話、ありがとうございました。創作をする人にはいい刺激に、そうでない人も興味深い話だったと思います。 ありがとうございました!



※①

『霊幻道士』1985年公開

『男たちの挽歌』1986年公開

『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』1987年公開

『恋する惑星』1994年公開

『天使の涙』1995年公開


[Wikipediaから引用]


※②

エラリー・クイーン/アメリカの推理作家、代表作に『Yの悲劇』など

ヴァン・ダイン/アメリカの推理作家、美術評論家、代表作に『グリーン家殺人事件』など

チェスタートン/イギリスの推理作家、批評家、詩人、随筆家、代表作に『ブラウン神父の童心』『木曜の男』など


[Wikipediaから引用]

※③

朗読ユニット グラスマーケッツ@glassmarkets

1999年12月、京都にて結成した朗読ユニット。代表は朗読家 佐野真希子。



池田久輝(@ikeda_hisaki)

小説家。脚本家。1999年に立ち上げた朗読ユニット グラスマーケッツでは、すべての脚本を担当(池田長十名義)。2013年、『晩夏光』にて第五回角川春樹小説賞を受賞。以降『まるたけえびすに、武将が通る。』(幻冬舎)、『ステイ・ゴールド』(双葉社)、『沈黙の誓い』(角川春樹事務所)などを上梓。2017年には、『影』が「日本推理作家協会賞短編部門」の候補作となる。日本推理作家協会会員。




虹の向こう

刑事からある女性のあとを尾けるよういわれた俺。仕方なく引き受け、その女性の日常をたどることになったが、その女性が向かったのは警察署だった……。日本推理作家協会賞の候補作「影」を含む短編4編を収録。高い文章力と巧みな構成力で一気に読ませるミステリー作品集。事件の裏のまたその奥にある真相とは。

双葉文庫

発売日:2020年10月15日

定価:本体680円+ 税

判型:A6判

ISBN 978-4-575-52405-5



文:mitsuki


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